まず、結論
転職すれば全員の賃金が上がるわけではないため、一律の昇給率を採用競争力の答えにしない。市場の同職種・地域・役割との比較と、社内の同じ貢献への公平さを両方確認する。
まず、原因を切り分ける
職種、役割、等級ごとに処遇と仕事を対応づける。外部求人の給与は対象、賞与、固定残業、勤務地を揃えて読む。評価結果に対する不満が、目標、評価証拠、説明、昇給のどこで生じたかを確認する。
| 原因の候補 | 確認する証拠 | 先に変えること |
|---|---|---|
| 市場と乖離 | 同職種・地域・役割 | 財源と条件を検討 |
| 社内の不公平 | 同じ貢献の差 | 基準と是正計画 |
| 説明不足 | 評価と給与の関係不明 | 根拠を伝える |
自社への3つの問い
- 給与の内訳と決め方を社員は理解しているか。
- 同じ役割の社員の差を、職務関連の理由で説明できるか。
- 目標は期初に合意され、途中で変わったら説明されているか。
この課題に使える根拠
転職後の賃金は、上がる人も下がる人もいる
2025年の転職入職者のうち、前職が雇用者で調査時点に在籍していた人。自営業からの転職は除外(概況15ページ・表6)。
- 前職より賃金が増加
- 40.8%
- 前職より賃金が減少
- 31.0%
- 賃金は変わらない
- 25.5%
出典:厚生労働省 / 2025年雇用動向調査(2026年8月31日公表) 原資料 ↗
数字・資料の読み方不詳を含むため3区分の合計は100%になりません。全職種の集計で、自社の提示給与の相場や、昇給すれば辞退を防げる割合ではありません。
人事の判断にどう使うか
JPMの読み解き・実務仮説転職すれば全員の賃金が上がるわけではないため、一律の昇給率を採用競争力の答えにしない。市場の同職種・地域・役割との比較と、社内の同じ貢献への公平さを両方確認する。
最初に確認する自社データ・現場の声
提示年収の内訳と昇給条件を揃え、候補者の比較条件を聞く。既存社員への影響、予算、説明できる評価基準を同時に整理する。
なぜ、その打ち手を選ぶのか
公正さの認識は、結果、手続き、説明に分けられる。金額が納得できなくても決め方が分かれば次の行動を考えられる場合があるが、説明だけで不当な差を解消できるわけではない。職務の価値、市場、社内の基準、財源を並べて判断する。昇給ができない時も、期待する仕事と将来の見通しを曖昧にして希望だけを持たせない。
自社に当てはめる仮想例
仮想例。若手の不満は『給与が低い』だったが、聞くと中途入社者との差の理由が分からないことが大きかった。役割と採用条件、在籍者の評価を整理し、説明可能な差と是正が必要な差を分ける。すぐに全差を解消できない場合は計画と条件を説明する。納得感が改善しても、金額の不足が解消したとは報告しない。
別の原因なら、別の打ち手
市場との明確な乖離があるなら、評価説明だけで採用競争力は改善しない。目標が現実と合わない場合は目標から直す。評価者による差が大きいなら校正が必要。報酬変更の効果は採用、定着、在籍者の公平性を同時に見る。短期の辞退率だけで判断すると、社内への影響を見落とす可能性がある。財源と継続性も経営と確認する。
- 01原因の証拠
- 02変える条件
- 03担当と試行
- 04行動の変化
- 05継続・修正
5つの施策を、同じ観点で比較する
| 施策 | 最初の着手 | 見る指標 |
|---|---|---|
| 職務別の報酬比較 | 自社の役割と外部求人の仕事内容、勤務地、給与内訳を並べる。 | 市場との条件差、採用辞退理由、社内の処遇差 |
| 目標の合意と変更管理 | 目標ごとに成果、期限、本人が制御できる範囲を確認する。 | 目標理解、途中変更の記録、評価への納得 |
| 評価証拠の記録 | 職種ごとに評価で使う成果物や行動の例を決める。 | 証拠の記録、見落とされた貢献、評価差 |
| 評価者間の校正 | 個人を特定しない評価事例を、複数の評価者が独立して判定する。 | 基準理解、根拠の質、評価への相談件数 |
| 評価説明と再確認の経路 | 評価説明で根拠、期待との差、次の成長機会を伝える。 | 説明理解、事実修正、次の行動の合意 |
担当候補:人事・経営・経理・評価者。期待する変化は「報酬と評価の根拠が説明でき、是正が必要な差が確認される。」。ただし、評価制度の名称だけ変え、現場の目標設定と説明の質が変わらない。
5施策の実行手順と失敗条件
1. 職務別の報酬比較
- なぜ効くと考えるか
- 同じ肩書でも仕事が違う。比較対象を役割と条件で揃えると、市場とのずれを判断しやすい。
- 最初にすること
- 自社の役割と外部求人の仕事内容、勤務地、給与内訳を並べる。
- 実行と成果物
- 総報酬と基本給を分け、データの時点と対象数を残す。採用時の提示と在籍者の処遇の差も確認し、変更の財源と公平性を検討する。
- 見る指標
- 市場との条件差、採用辞退理由、社内の処遇差
- 失敗しやすい点
- 掲載給与は実際の採用給与と同じとは限らない。幅と前提を明示する。
2. 目標の合意と変更管理
- なぜ効くと考えるか
- 後から変わった基準で評価されると納得が得にくい。期初の期待と途中の変更を明示する。
- 最初にすること
- 目標ごとに成果、期限、本人が制御できる範囲を確認する。
- 実行と成果物
- 事業都合で変わった仕事は評価目標も調整する。達成だけでなく前提変更と支援の状況を記録し、評価の前に確認する。
- 見る指標
- 目標理解、途中変更の記録、評価への納得
- 失敗しやすい点
- 数値にできない仕事を無理に件数へ置き換えない。質の確認方法を決める。
3. 評価証拠の記録
- なぜ効くと考えるか
- 記憶に残る出来事だけで評価すると、直近の印象や目立つ仕事に偏る。行動と成果を定期的に記録する。
- 最初にすること
- 職種ごとに評価で使う成果物や行動の例を決める。
- 実行と成果物
- 社員本人と上司が定期的に実績を記録する。見えにくい支援や予防の仕事も、何を防ぎ何を支えたか確認できるようにする。
- 見る指標
- 証拠の記録、見落とされた貢献、評価差
- 失敗しやすい点
- 記録を増やしすぎて本来の仕事を圧迫しない。重要な証拠に絞る。
4. 評価者間の校正
- なぜ効くと考えるか
- 部署による甘辛差を、同じ基準で具体例を比較して確認する。全員を平均に寄せることが目的ではない。
- 最初にすること
- 個人を特定しない評価事例を、複数の評価者が独立して判定する。
- 実行と成果物
- 差の理由を基準、仕事の難しさ、証拠の不足に分ける。役割の違いを消さず、説明ができない差を修正する。
- 見る指標
- 基準理解、根拠の質、評価への相談件数
- 失敗しやすい点
- 人数分布を先に決めて証拠を後付けしない。役割に合う基準を確認する。
5. 評価説明と再確認の経路
- なぜ効くと考えるか
- 社員が結果を理解し、事実の誤りを修正できる経路があれば、受け止め方を確認できる。評価を伝えて終わりにしない。
- 最初にすること
- 評価説明で根拠、期待との差、次の成長機会を伝える。
- 実行と成果物
- 本人が納得しなかった点を記録し、事実確認と制度上の相談を分ける。再確認の期限と担当を示し、相談したことを不利益に扱わない。
- 見る指標
- 説明理解、事実修正、次の行動の合意
- 失敗しやすい点
- 全員が満足することを目標にしない。説明できることと誤りを直せることを確保する。
最初の30日を、小さく試す
| 時期 | 決める・確かめること | 残す記録 |
|---|---|---|
| 1週目 | 提示年収の内訳と昇給条件を揃え、候補者の比較条件を聞く。既存社員への影響、予算、説明できる評価基準を同時に整理する。 | 対象人数・期間・現在の状態 |
| 2週目 | 人事・経営・経理・評価者と担当・時間・権限を合意する | 実行条件と予算・協力時間 |
| 3週目 | 実施後に『給与の内訳と決め方を社員は理解しているか。』を再確認する | 利用できた人・障害・反対の声 |
| 4週目 | 継続・修正・中止を判断する | 変化・同時に変えた条件・次の確認日 |
実行チェック
出典・対象・関連記事
- 厚生労働省 / 2025年雇用動向調査(2026年8月31日公表) ↗2025年の転職入職者のうち、前職が雇用者で調査時点に在籍していた人。自営業からの転職は除外(概況15ページ・表6)。
資料確認:2026年10月8日。原資料の必要な要点を独自に要約し、図解・比較表・実行手順はJPMが設計。実務仮説や仮想例は、効果が実証された事例ではありません。専門家の個別監修を受けた記事とは表示していません。
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